黄昏メランコリア



『まあほら、こういうのってどれだけ楽しめたかみたいなもんじゃないですか。ボクはそうですねえ、本当にただ純粋に楽しいなーって思ってるんですよ。ゲームを。ボクはこの世の全てのゲームを愛していますし、愛するつもりです。…ええ、ええ……そうですね。だからこれからのね、ボクより年下の人達はね、人生毛嫌いしないで欲しいっていうか………そう、そうなんです、そう!人生はゲームです!ゲームなんだから、楽しまなきゃ』


3Dメガネが、カメラのフラッシュに反射して光った。世界はまさに極彩色だった。少なくとも彼にとっては。




ゲームには必ず敗者が居る。勝っても負けても皆爽やかすっきりハッピーなんて、それこそ運動会の標語の中だけの話だ。負けてもハッピーなんて本気で言う奴が居たら、シルヴィーは速攻でそいつを捻り潰してしまうだろう。勝負をなめるなと。


……おそらく、きっと、その「負けてもハッピー」を本気で言う奴だからこそ、シルヴィはボゥイを潰してしまいたくて仕方がないのだ。常に楽しそうな表情で、ゲームを、人生を謳歌し、そしてそれが当然の事だと思っているあの愚かで幸せな少年が、シルヴィーは憎くて憎くてたまらない。しかしどうしても、どうやって挑んでも、自分は奴の3Dメガネの中に映る世界を壊すことが出来ないのだった。



「肩の力が入りすぎなんだよ。ゲームだぞ?ゲーム」
以前やってきたサンタに、ボゥイを負かす力が欲しいと愚痴ったことがある。赤鼻のサンタは一瞬虚を突かれたような表情になって―――そして爆笑した。
「奴さんは気楽にやってんだよ。お前との勝負もお遊びだと思ってるんじゃねえの?多分お前に負けても、奴さんはケラケラ笑ってるだけだと思うぜ。『楽しかったねえ』なんて言って」
「その態度が気に入らない」

「…多分な、シルヴィー名人」その言葉を言うときだけ、サンタは真顔になっていた気がする。「お前が勝てない理由、そこにあるんじゃね?あんた、自分がマジメだからって、周りにもマジメを求めるのは宜しくないことだぞ。結局空回りするだけだからな。……一人で空回りするって、とっても見てて悲しくて無様だ」

分かりきっている。結局そういうことなのだ。


窓から差し込んでくる夕日は赤い。テレビの音量を下げ、シルヴィーはカーテンに手をかけた。昼の青と夕日の赤、夜の黒が混じった極彩色の世界がそこにあった。

(必要ない…)
机の上に放置していたサングラスをかけてみる。色はただの濃淡の度合いを表すしるしにしかならない、灰色の
世界が現れた。一人これをかけて、一人満足に陥って、あまつさえ他人にこの景色を強制することは、きっと愚かなことなのだ。サングラスを通さずに見た空の色のほうがずっと美しいってことくらい自分にも分かっている。
(でも、だめだ…とらなくていい。……とれない)
自分がこのサングラスを取るとき。それは間違いなく、自分がボゥイに勝つとき以外ありえない。ボゥイに勝って、
奴と、奴と同じような色を抱く奴らの世界を、完膚なきまでに壊してやったとき。


―――壊してやったと笑うのは、自分だけでしかないのだけれども。


テレビから聞こえる音は、夕方のニュースのそれになっていた。シルヴィーは溜息を吐くと、思考のカーテンを音を立てて閉め、日常へと戻っていった。







―――"Twiright groom" the end.





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